Vol.5 記憶力の衰え(記憶障害)

フィトテラピーの本場フランスの、ハーブ専門薬局「エルベオ」のオーナーであるフランソワ・プティテさん直伝の処方せんを、月に1回ご紹介するこのコラム。今月の処方せんは「記憶力の衰え」です。「記憶力の衰え」というと、認知症への懸念が真っ先に思い浮かぶと思いますが、それに対するケアは、記憶力の活性や向上が期待できるということでもあります。これは年齢を問わず、興味深いテーマですよね。とくに秋は、学びや創作への意欲が高まる季節。何か新しいことを学びたい、身につけたい、そんな気持ちを頼もしく後押ししてくれるフィトテラピーをご紹介します。

“記憶”は私たちが学習した物事の痕跡です。学んだすべてを保存するのは非効率的ですが、幸いにも記憶は寄り分けて整理区分されています。異なる脳の領域に、独自のプロセスをもった記憶を保存する部位がいくつかあって、おおまかに以下の2つに区分されます。

(1)名前、記号、電話番号など、刹那の情報を保存する「即時記憶(短期記憶)」
(2) 単語、動きの意味、技術的なノウハウ、重要で意味深いできごとの思い出を保存する「遠隔記憶(長期記憶)」

では、こういった学習や記憶に役立つハーブには、どのようものがあるのでしょうか? よく知られているもののうち、科学的に効果が検証されているものはバコパ、レッサー・ペリウィンクル(仏名 プチィト・ペルヴァンシュ)、そしてギンコ(イチョウの葉)。アロマテラピーでは、ローズマリーやユーカリ・スミティーのような、シネオール・オイルが良いとされます。また、緑茶やルイボスなど抗酸化物質が豊富なハーブ、高麗人参やロディオラなどのアダプトゲン・ハーブも、記憶障害に対する興味深い効果があり、補足に使えることを覚えておくとよいでしょう。

ギンコは最も古い、アジアの伝統的な薬草の1つ。ヨーロッパに輸入され、多くの医薬品の基礎となっています。最大40メートルの高さにもなる高木で、1億5000万年前から存在し、幾多の地質的混乱や歴史的災害に耐え抜いてきました。『生きている化石』とも言われ、仏教においては『聖なる木』でもあります。ギンコにはオスとメスがあり(雄雌異株)、非常に臭い小さな実(銀杏)をつけます。秋には明るい黄色になる扇形の葉が特徴で、フィトテラピーでは有効成分豊富なその葉を使用します。

葉にはフラボノイド、ギンコライドといった優れた抗酸化成分が含まれ、また抗炎症、炎症伝達物質の拮抗作用ももっています。それらの有効成分が動脈を拡張し、静脈の収縮作用に対して働きかけ、毛細血管の抵抗を強化し、微小循環を活性化するのです。動物薬理学と多くの臨床研究において、ギンコのエキスが記憶と学習に有益な効果があると示しています。ギンコはとくに脳、網膜、内耳の微小循環系の病状に対する治療薬として知られ、高齢者の脳機能不全、記憶力の喪失、めまい、耳鳴り、微小の虚血性障害または加齢による聴覚および視覚障害に対して用いられています。

ギンコ

学名:Ginkgo biloba
仏名:Ginkgo
英名:Ginkgo
和名:イチョウ
科名:イチョウ科

プティテさんのフィトテラピストとしての経験談

マダムXの20代の息子さんは、大学で2年間将来の進路を考え、オステオパシーの養成を受けることに決めました。彼にとっては新しい分野で、学ぶことや覚えることがたくさんありました。そこでマダムは、勉学の集中期に役立つハーブを探しに、息子さんと一緒に私に会いに来られました。

私は息子さんにギンコ、レッサー・ペリウィンクル、ローズマリー、ペパーミントのブレンドハーブを、ギンコの新芽エキス(ジェモテラピー)と1日おきに摂取すること、それからローズマリー・シネオールのエッセンシャルオイルも集中力と記憶力を刺激してくれるので、このエッセンシャルオイル1〜2滴に植物オイル2〜3滴の割合で混ぜ、手首で摩擦して使用することを提案しました。彼は『学習の助けになった』とブレンド用ハーブを再び購入しに来てくれ、それを見て私は満足感を感じました。ローズマリーのエッセンシャルオイルを手首で摩擦して香る方法を、彼は試験の時にも活用しているそうです。

今日のレシピ

知的活動の集中期、試験の準備、会議の準備、またはより良い記憶力のサポートのための、 “認知(コニチィーブ)”ハーブティーをご提案します。まずはギンコ。それから、同じく大脳の血流に欠かせないレッサー・ペリウィンクル(仏名プチィト・ペルヴァンシュ)。さらに、ローズマリーのような強い抗酸化作用をもったハーブと、ペパーミントのような刺激効果のあるハーブをブレンドして、相乗効果を高めます。

【材料】
ギンコ(葉) Ginkgo biloba ……… 2
レッサー・ペリウィンクル(葉) Vinca minor ……… 1
ローズマリー(葉) Rosmarinus officinalis ……… 2
ペパーミント(葉) Mentha × piperita ……… 1
※数字は分量の比率です。

【作り方・飲み方】
(1)1リットルの水に大さじ3杯のブレンドハーブを入れる。
(2)85〜95℃で10分間煎じて濾す。
「温かいまま、あるいは冷やしてその日のうちにお飲みください。タンチュメールの場合は1日あたり30〜50滴が適量です」。

François Petitet / フランソワ・プティテ

パリ第13大学 フィトテラピー・アロマテラピー科を卒業。パリ第5大学にて薬学博士号を、コレージュ・ド・フランスにて神経科学博士号を取得。パリ病院にてインターン、製薬会社にて主任科学者、最高科学責任者、最高技術責任者を歴任。エルボリステリーHerbéoの創設者でもあり、パリ第13大学 臨床フィトテラピー・ディプロマ・ユニバーシティーでは生薬についての講師を務める。

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